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    契約(「ハンデ」・完)

     女たちはまだ荒い息を吐いていた。汗まみれの身体をソファにもたせかけ、互いに寄り添うようにしながら、辛うじて開いたままの目は、どこも見ていない。バイブ責めで連続絶頂に導かれ、散々に喉を絞らされた後では、口を利くのも億劫だった。脚の拘束は解かれていたが、高手小手の縛めはそのままだった。少し離れたところで胡座をかいた男たちが、小さな声で会話していた。
    「飯島さん、梨菜っていい女でしょ? その代わり、約束の件は……」
    「もちろん、分かってるさ。彼女は金になる。君の借金もチャラにできるだろう」
    「お願いしますよ、へへっ。次は本番ですよね?」
     川崎はへつらうような笑いを見せた。
    「しかし、梨菜さんって、ソープなんかに売るには、ちょっと勿体ないな」
    「おれには過ぎた女ですが、しょうがないっすよ」
     声は流石に沈んでいた。頷きながら、飯島はスマホの画面を触っていた。
    「何? 何の話をしてるの?」
    「まだ聞かされてないんだったな。君の彼氏はね、パチンコにハマり過ぎて百万単位の借金を作ってしまったんだ」
     さすがの川崎もバツが悪そうに後頭部を掻いた。
    「そうなの? あたし知らないわよっ! 貯金がもう少し貯まったら結婚って言ってたじゃない」
    「借金返して金を貯めるには、お前に風俗で働いてもらうのが一番早いじゃん。飯島さんはな、そっちにも顔が利くんだ。今日はそのためのテストなんだ」
    「酷いっ! あたしを騙して、こんなところに連れこんで……」
     梨菜は怒りのあまり、立ち上がろうとした。だが、激しく消耗した緊縛された身体は言うことを聞かない。2、3歩歩んだところで、その場にくずおれた。
    「これから、最後の試験をしよう。ここまで来たら、熱いものが欲しいだろ? わたしは梨菜さんを抱かせてもらうよ」
    「おれ、奈美さんをやっていいんすよね?」
    「イヤだっ、それだけは絶対にイヤっ」
     泣き叫んだのは奈美だった。梨菜は恨めしげに2人の男を睨んでいる。
    「そうか、イヤなのか。川崎君に何度も逝かせてもらったくせに、しょうがないな」
     そのとき、玄関のチャイムが鳴った。壁際のドアフォンを取り、訪問者にしばし待つよう伝えた飯島は、財布から1万円札を抜き出しながら言った。
    「新聞の集金だよ。昼間留守にしてると、夜でも取りに来るんだ。また呼び出されたらかなわん。川崎君、悪いけど払ってきてやってくれないか? 本番はその後にしよう」
     札を受け取った川崎は、嬉々としてキッチンと繋がった玄関に向かった。間もなく、何かがぶつかるような音が聞こえてきた。
    「何をしやがる? うわっ……」
    「どうしたのよ、川崎君っ?」
     梨菜が問い掛けた。3人のいる部屋から、キッチンや玄関は死角になっている。奈美の表情には怯えの色が浮かんでいた。飯島が無言で部屋を後にした。川崎の声も物音も消え、その代わりにこそこそとした話し合いがわずかに漏れ聞こえてきた。
     2人の女が不安げに顔を見合わせながら、玄関の様子に耳をそばだてていると、飯島1人が戻ってきた。
    「梨菜さん、奈美、2人にとっては良い報せがある。まず梨菜さん、あなたをソープに沈める計画は中止だ」
    「そんなことより、川崎君はどうしたの? どうしたのよっ?」
    「川崎君は自力で借金を返済することに同意したよ。いや、正確には同意させられると言うべきかな」
    「どういう意味?」
    「借金返済のために、川崎君はしばらくの間、特殊な場所で働くことになる。短くとも半年は東京を離れざるを得ない。もちろん、そんなこと今すぐには決意できないから、わたしの知り合いに説得してもらう。彼は今、歌舞伎町にあるその知り合いの事務所に行っている」
     言葉の意味を理解した梨菜は、呆然と飯島の顔を見つめた後、叫んだ。
    「川崎君をヤクザの下で働かせるってこと? そんな、酷いっ……。彼を許してあげてください……」
     縛られた身体を折り、頭を床に擦り付けて哀願する梨菜を無視して、飯島は続けた。
    「もちろん、川崎君はここを離れたから、奈美は彼に抱かれずに済むんだ。ああいうチャラいのは、ちょっと苦手なんだよな?」
    「鬼畜っ!」
    「梨菜さんがあまりにいい女過ぎるのがいけないんだよ」
     飯島は平然としている。あまりの展開に、奈美も霞がかっていた目を見開いていた。飯島は奈美をソファから下ろして胡座縛りを施した。医療用テープで両乳首にそれぞれピンクローターを貼り付け、床についた尻を浮かせると、3つめのローターを後門に差し入れた。
    「イヤっ、お尻なんか触んないでっ」
    「先に梨菜さんを抱いた後、奈美をたっぷり犯してやるからな。それまで退屈だろうから、ローターで我慢しているんだよ」
    「そんな……」
     ローターのスイッチが入れられると、奈美は胡座縛りの身体を悶えさせ始めた。後門に咥えられる振動は、快感とむず痒さの混じった感覚を送り込んでくる。奈美は戸惑いながらも、何も呑まされていない秘口から半透明の粘液を溢れさせていた。飯島が梨菜を床に押し倒した。
    「イヤっ、あんたなんかに抱かれたくないっ」
     組み敷かれながら、梨菜は懸命に抵抗した。
    「そう言いながら、また濡らしてるじゃないか。随分と熱いぞ」
     閉じようとする股間に無理矢理手をこじ入れた飯島が嗤った。
    「それにな、さっき奈美との勝負に負けたお仕置きはまだ済んでないぞ。あんなによがっておきながら、今さらイヤだはないだろう?」
    「関係ないっ、そんなの……」
    「大人しく抱かれるんだ。その方が川崎君のためにもなる」
    「何よそれっ?」
    「今から半年の間、梨菜さんがわたしの相手をすれば、川崎君が帰って来られるように向こうに掛け合おう。その後はあなたを解放するし、川崎君にも仕事を見つけてやる」
    「本当ですか?」
    「ああ。半年我慢すれば、戻ってきた彼と一緒に暮らせる」
    「でも……。うぅっ」
     飯島の指が優しく秘裂を擦り始めた。
    「梨菜さんもSMプレイが嫌いじゃないってことは、自分でも分かってるはずだ。さっきみたいに気持ちいい思いをしながら、借金を返し終わって綺麗な身体になった彼の帰りを待とう」
     梨菜をかき口説きながら、飯島は両脚を開かせ、いつの間にかコンドームを被せた怒張の先端を潜り込ませてきた。
    「あんっ!」
     川崎のものより明らかに太い。それが蜜壺を割り広げながら侵入してくる感覚に、梨菜は眩いた。
    「んああっ!」
     先端の太いものは、ゆっくりと抽送を開始した。数回浅くゆっくりと出し入れされたかと思うと、大きなストロークで深く力強く突いてくる。奥をこね回した後、再び浅い抽送に戻る。既に十分すぎるほど身体をほぐされた梨菜は、飯島の巧みな動きがもたらす快感に、のたうち回るしかなかった。
    「オマ×コがキュッキュッと締まってくるぞ。もう感じちゃってるのか? また逝っちゃうぞ、この調子だと」
    「ああっ、んふん……。あああ、そこ突かないでっ」
     梨菜の喘ぎ声は早くも間隔を狭め、切なげな調子を帯びていた。
    「半年間、いつでもこの快感を味わえるんだよ。奈美を入れて3Pしたっていいんだ。OKするだろう?」
    「分かったわっ。ああ、動きを止めちゃイヤあっ。もっとぉ……。あん、ああんっ、あひっ……」
     飯島が抽送のテンポを速めた。梨菜は大きな声を上げてよがり狂っている。腰がプルプルと震えだした。
    「ああっ、逝きそうっ。逝く……。いっくぅっ!」
     梨菜の背中が弓なりに反った。それでも飯島は抽送を続けた。
    「ダメっ、また……」
     今日何度目かの絶頂を迎える梨菜を冷静な顔で眺めながら、飯島は心の中で呟いた。
    (ソープに沈めるまで、半年はこの女を愉しむか)
     拉致された川崎の解放を働きかけるつもりなど、飯島には毛頭なかった。梨菜を売り飛ばすのを先延ばしにしたのは、この女の身体と反応が気に入ったからだ。だが、奴隷として本気で育成するのは、従順で清楚な奈美だけで十分だと考えていた。
    「許してっ……。また逝きそう……」
     梨菜が腰を振り立てる。だが、飯島は梨菜の中で発射するつもりはなかった。傍らでは、後門への刺激に焦れた奈美が、もどかしげな表情を晒しながら、やるせない感情の籠もった眼差しを投げかけている。飯島と奈美の視線が絡み合った。梨菜の身体から離れた飯島は、奈美に歩み寄っていった。
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