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    水滴

    「んぅっ……あんっ」
     坂上が麻那の唇を貪り始めた。左手を彼女の後頭部に添えてさり気なく顔を固定しつつ、右手は麻縄で上下を括られた乳房を撫で回している。素肌の上に直接白いブラウスをまとっているため、乳首は布地から浮き立って見える。緊縛された上半身がむずかるように捩れると、坂上は後頭部に添えた手を下ろし、腰の上で固定された小さな右手を握った。それに応えるように、麻那の指が坂上の節くれ立った指を握り返す。
     絨毯の敷かれた床に横座りになり、大腿丈の黒いストッキングに覆われた細い脚を擦り合わせながら、麻那は坂上の舌を懸命に吸った。ズボンの中で、坂上の剛直は早くも充血してきた。
    「お願い、灯りを暗くして。真っ暗でもいい……」
     坂上の手がブラウスのボタンに掛かったとき、唇を振りほどきながら麻那は訴えた。もう30近いのに、妙なところで羞恥心が強い。こうした関係になって既に3ヵ月だが、彼女の部屋でプレイをするのは初めてだ。普段の生活の場で弄ばれるのには、余計恥ずかしさを覚えるのかも知れない。
    「暗くしたら、麻那の綺麗なおっぱいを見られないよ」
     坂上は笑った。さほど大きくはないが、お椀型に整った乳房が縄目に締め上げられて飛び出しているのを目にするのは、なかなかに得がたい愉悦だ。そして、これから白く吸い付くような肌が責めのもたらす快楽に赤く染まり、地味ながら整った顔が羞恥に歪むのだ。40過ぎの既婚者である坂上にとっては極上の興奮剤でもある。
    「だって恥ずかしいもん」
    「乳首が固くなってるからだよね?」
    「ああ、いやんっ」
     坂上の指が乳首の周囲を這い回り始めた。麻那は肩に掛かった黒髪を揺らしながら、顔を背けた。ほのかなシャンプーの香りがさり気なく鼻腔を擽る。上半身を揺り動かしているため、坂上の手はなかなかブラウスのボタンを捉えきれない。
    「じゃ、ブラウスを脱がすのは止めようか」
     坂上は縄などの責め道具を入れたバッグから何かを取り出すと、キッチンの流し台に向かった。水が流れる音がした後、戻ってきた彼の手にはプラスチック製の霧吹きがあった。
    「イヤっ!」
     坂上の意図を悟った麻那が短い悲鳴を漏らした。
    「脱がすわけじゃないからな、このままの明るさでも問題ないだろう」
     首の両側を通って両乳房の真ん中を締め上げる縄を掴み、麻那の上半身を固定しながら、坂上はブラウスに覆われた胸に向けて霧を吹きかけた。
    「やだ、やだそれ……」
    「冷たくないからいいだろう?水じゃなくてぬるま湯を入れてやったんだから」
     あえて的外れな答えを口にしながら、それぞれの乳房に2回ずつ霧吹きの中身を噴射すると、濡れた白布から薄桃色の乳首が浮いて見えた。
    「あ、やっぱり乳首充血してるね」
    「恥ずかしいってばっ」
    「乳輪も鳥肌立ったみたいになってるよ。まだ何にもされてないのにどうしちゃったの?」
     坂上はぬるま湯をさらに両乳房に吹き付けながら、麻那の羞恥心を煽る。乳房が濡れを増すたび、乳首はますます充血していくのが見て取れる。ライトブルーのショーツに覆われた腰がわずかに蠢いているのも、坂上は察知していた。
    「麻那のこの格好、色っぽいねえ」
     麻那の身体から離れた坂上は、スマートフォンのカメラで彼女の恥ずかしい姿を撮影し始めた。
    「こんな格好撮らないで……」
    「何度も撮影させてるじゃん。今さら何が恥ずかしい?」
    「だって……」
    「ほら、こっち向いて。あ、でも俯いてる格好も悪くないな」
     さほど広くはない部屋にシャッター音が鳴り響く。麻那は縛られた上半身を時折左右に捩りながら俯いたまま顔を動かし、髪が顔に垂れるようにした。スマホのレンズに恥ずかしい表情を晒したくないからだ。だが、横座りになった脚を何度か組み替えたり、正座したりしながら、落ち着かない様子を示している。
    「おっぱいが何だか熱いの……」
     俯いたまま麻那が呟くように言った。
    「何だって、聞こえないなあ。顔をハッキリ見せて言ってよ」
     麻那が唇を噛みしめるのが、坂上にも分かった。まだ意地を張りたいらしい。だが、顔を左右に振り立て始めたのは、それから間もなくだった。顔の前に掛かる髪を振り払うと、上目遣いに坂上の顔を見つめながら、麻那は哀願を始めた。
    「おっぱいが熱い……。熱いんですっ」
    「霧吹きで濡らされただけで、おっぱい感じちゃうのかな?」
    「ああ、ずるいっ! お湯に変なもの混ぜたでしょ? たまんないっ」
    「変なもの? 何のことを言ってるのかな」
     背後に回ってしゃがみ込んだ坂上は、耳孔に息を吹きかけながら、両手で麻那のわき腹を擽り始めた。焦れた麻那の手が坂上の逸物をズボンの上から触ろうとする。坂上の手は大腿の内側やストッキングに包まれた爪先を撫で回す。
    「あん、微妙に感じるところばっかり……」
    「微妙と言いながら、濡らしてるんだろ? 牝の匂いが漂ってくるよ」
     坂上の舌がうなじをツーッと舐める。麻那の身体はさらに火照る。
    「おっぱい揉んでっ! 乳首触ってえっ」
     こんなに早く崩れた彼女は久々だった。麻那の指摘どおり、霧吹きの中身には細工が施されていた。ぬるま湯と同じ割合で、肌の感覚を敏感にするローションを混ぜていたのだ。効果は坂上の予想をはるかに上回っていた。坂上の指がブラウスの上から片方の乳首を触った。
    「あんんっ!」
     坂上は両手の人差し指から小指を順番に滑らすように、乳首の上を走らせた。待ち望んでいた快感に、麻那は顔を仰け反らせながら喘いだ。
    「もっと……」
    「乳首、直に触ってほしい?」
    「お願い……」
     振り向いた麻那の目は、さらなる刺激への期待と坂上への媚びに満たされていた。坂上はボタンを引きちぎるようにブラウスをはだけさせた。ローション入りの水滴が浮いた乳房にはほんのり赤みが差し、乳首が小梅の実のように膨らんでいる。坂上は指先で片方の乳首を弾いた。
    「痛いっ、意地悪ぅ……」
     両方の乳首が繰り返し弾かれた。
    「直に触ってあげてるじゃない」
    「さっきみたいに気持ち良くして……」
    「これも気持ちいいんじゃないかな」
    「イヤっ、何するの? 取って、取ってぇ」
     坂上はズボンのポケットから取り出した木製の洗濯ばさみを両方の乳首に噛ませていた。
    「刺激に飢えて勃起した乳首には、このぐらいが丁度いいだろ?」
     麻那の顎をつまんで瞳を覗き込みながら、坂上は嗤った。麻那は口惜しさと哀訴の入り混じった目で坂上を見返した。噛みしめられた唇から、ルージュがほとんど剥げていた。
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