広い廊下からはラベンダーの香りがほのかに漂ってくる。
「おまえ、この匂いが気に入ったって言ってたじゃないか。早く出てこいよ」
「こ、こんな格好じゃイヤ……」
「素っ裸じゃないんだから、大丈夫だよ」
田口は部屋の中に逃げ込もうとする未紗の上半身を両手で抱え、部屋の入り口から廊下に引きずり出した。未紗は部屋に備え付けのバスローブを身に着けている。いや、身に着けさせられていると言った方が適当かも知れない。
フロント係の目の前で絶頂を強制された後、未紗は後ろ手に緊縛された身体にバスローブを羽織らせられた。全身に浮かべた汗や身体の一部に残る粘液もロクに拭き取られないままだったが、田口は「こいつはお情けだ」と嗤い、ショーツだけは穿かせてくれた。だが、縛られたまま男に下着を着けさせられるのは、別の意味で強烈な羞恥をもたらした。
廊下に無理矢理出された後、田口に背中を押されて未紗はビクビクしながら歩み始めた。しかし、2-3歩足を進めた後で、不安と恨みのこもった顔を田口に向けて言った。
「やっぱり恥ずかしい」
「どうしてだ? 裸で縛られた姿を晒してる訳じゃあるまいに」
だが、後ろ手に縛られた身体にバスローブを羽織っただけの姿は、一目見て不自然と分かる。ベルト代わりの腰紐はきっちり結ばれているとは言え、腰の上で両手を重ねて拘束されているため、背中の部分が奇妙に盛り上がっている。そのせいか、襟元は緩んでしまい、もう少しで乳房が見えそうになっていた。未紗が上半身を揺すったため襟が乱れ、首から胸に掛かった縄が一瞬顔を覗かせた。
「あたしの恥ずかしい格好、人に見られても平気なの……?」
「そんな美しいものは、少しでも多くの人にご覧いただきたいね。本当は裸で縛られた姿で引き回しにしてやりたいんだが、さすがにそういうわけには行かないから、お情けを掛けてやっているんじゃないか」
田口はさらに強く背中を小突いた。
「ほら、とっとと歩け。エレベーターホールに着いたら、引き返そうか」
田口たちの部屋からホールまでは50メートル近くの距離がある。
「人が来たらどうするのよ……」
「別になんて言うことはないさ。ニッコリ笑って会釈してやれ」
今にも泣き出しそうな未紗の表情にほくそ笑みながら、田口は彼女の抗議を受け流した。廊下の様子は間違いなく、監視カメラで見張られているに違いない。田口と未紗の様子を視ていぶかしんだ警備係が、やんわり注意しにやってくる可能性もある。それに、シティホテルでは廊下とはいえ、バスローブ姿で歩くのは禁止事項だろう。それもあって、田口だけは未紗とのプレイを開始した後も、チェックインしたとき同じシャツとスラックスを身に付けていた。これにより、全裸緊縛の未紗は余計に屈辱感を味わうことになる。今もそうだ。
「ほら、そんな歩き方じゃ、いつまで経ってもエレベーターホールには着かないぜ。おれはそれでも構わないけどな」
「分かったわよ、歩けばいいんでしょう?」
未紗は田口を睨むと、意を決したように歩みを速め始めた。だが、緊縛され不自然な着衣を強制された格好では、早足になるにも限度がある。その上、田口が施した新たな意地悪な仕掛けも気になっていた。
頼りない足取りながら、未紗は数分後にエレベーターホールにたどり着いた。わずかな距離にもかかわらず、羞恥のせいか未紗の顔にはほのかに汗が浮いている。
「思ったよりすんなり着いたじゃないか。折り返し地点に到達したご褒美をやろうな」
田口はスラックスのポケットから取り出したリモコンを未紗に向けた。
「あぁっ! こんなところでっ……」
リモコンローターが振動し始めた。田口は未紗の肉芽に当たる部分にローターの振動子を仕込んでおいたのだ。下半身を剃毛された未紗の股間に、医療用の強力な粘着テープでローターを貼り付け、さらにそれを固定するためにわざわざショーツを穿かせていた。「お情け」とは、単なるお為ごかしだった。
「ほら、ご褒美をくれてやっている間に、部屋まで歩くんだ」
「無理よ、そんなの……。あひぃっ、振動強くしないでぇ!」
「そんな声を出したら、他の部屋の宿泊客が驚いて飛び出してくるぞ」
「だって、あぁん……」
「じゃ、少しローターを弱くしてやる。だから、とっとと部屋に歩くんだ」
未紗は何とか歩みを進めようとしたが、肉芽に連続して伝わってくる刺激は、未紗を悩乱に追い込むばかりだ。その上、無理に足を前に運ぼうとすると、振動に別の刺激が加わり、未紗の性感をさらに煽り立てる結果となる。額から脂汗を垂らしながら、未紗はやがて歩くどころか立っているのも困難になった。
「早く歩けって言ってるだろうが」
田口は未紗の尻を平手で数回叩きながら叱責した。パンパンという音が、ラベンダーの香りの漂う静かな廊下にこだまする。
「意地悪しないでっ。歩くから、ローターを止めて……」
悔しさと興奮がない混ざった表情で、未紗は訴えた。
「反抗的な顔しやがって。歩く前に、もっと素直になってもらわなきゃな」
田口はローターの振動を強めた。
「ぐぅっ……。イヤぁぁ」
小さく叫んで、未紗は床にしゃがみ込んでしまった。何とか再び立ち上がろうとしたが、刺激に負けてそのまま床に両膝をつき、腰を折って上半身も倒れ込みそうな姿勢となる。
「立ってられなくなっちまったのか? この程度の刺激でだらしないな」
田口は残忍な笑みで頬を歪めながら、未紗の襟元から手を忍ばせ、乳首をクネクネと揉み立てた。振動は不規則な動きに変化している。
「乳首ダメっ! ダメっ……。ああ、たまんないっ」
いったんは床につきそうになった上半身を反り返し、縛られた上半身を左右に揺すって未紗は声を上げた。腰はクネクネと蠢かせている。やがて、反らせた上半身がビクッビクッと断続的に痙攣し、腰もプルプルと震え始めた。
「おい、まさか逝ったんじゃないだろうな? 監視カメラに撮られちまってるぜ、未紗の恥ずかしい姿が」
田口の揶揄は遠くから響いているようにしか聞こえない。単なるローターの肉芽への刺激で、ここまでの絶頂感を得たのは、未紗にとっても初めてだった。
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