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    爽風

    「この部屋、窓開くんだ。ほら、いい風が入ってくるぜ」 「やだ、恥ずかしいってば…」 「半開きだから、そんなに怖いことないって」 「でも、声が聞こえちゃうじゃない…」 「声なんか出さなきゃいいのさ、美智恵が」 そう言いながら、稲垣は背後から回した手で美智恵の両乳 首をクリクリと摘み、転がす。彼女がそこを少し嬲られただけではしたない声を上げてしまうことを知り抜いているにもかかわらず。 「あぁん、イヤだってばぁ」 「イヤなら、縄抜けしておれの手を押さえてみろよ」  稲垣はまた美智恵に無理難題を押し付けた。やや細身の身体を、稲垣の好みである黒のブ ラジャーとシ ョーツ、ガータ ーストッキ ングに包んだ彼女は、えんじ色に染まった彼愛用の麻縄で高手小手に縛り上げられている。手首の縛りをほどこうを抜こうとしても、二の腕と胸を締め上げる縄に阻まれる。それどころか、手首を動かすと指先が稲垣のスラックスの上から既に充血した怒張に触れてしまい、つい握りしめたくなる。  恥ずかしさに思わず俯くと、稲垣の指先がショー ツに包まれた股間の上を蠢いているの目に入る。池袋のラ ブホテルの2階で、ベッドの枕元のパネルの真上にある窓に向かい、膝立ちにさせられた美智恵は、迫り来る快美感のせいで、早くも進退窮まる状況に追い込まれていた。 「もう、意地悪っ!窓閉めてったら」 「美智恵のいい声をホテルの外を通る方々に聞いていただこうぜ」  稲垣は嗤いながら乳首と股間をまさぐる手の動きを速めた。美智恵は「ああああっ」と一声叫ぶと、顔を左右に振りたてながら腰を回し始めた。 「ほら、若い女の子が下を通ってる。声を出して教えてやれよ、世の中には美智恵みたいに縛られてスケ ベなことされるのが大好きな女がいるってことをな」 「そんなのイヤよ、もういじめないで…」  美智恵が細長く描いた眉を文字通り八の字に歪めながら必死で訴える。背後から彼女に取りついた稲垣の目に、鏡面仕立ての窓枠に映る彼女の表情が飛び込んできた。 「なら、『美智恵が縛られてエ ロいことをされているときの声を聴かれたくないので、窓を閉めてください』と、おねだりしてみろ」  稲垣が送り込んでくる淫 らな波動に耐えながら、美智恵は言われた通りの言葉を繰り返した。 「よくできました。でも、今日敬語を使ったのはこれが初めてだな。おねだりの仕方すら忘れてたお仕置きだ、窓はまだ開けたままだ」 「約束が違うじゃない…」  八の字に下がっていた眉毛を、美智恵は逆立てた。だが、怒りを表す表情の裏に、快楽に負け込んだ気弱さが覗く。彼女の敗走が間もなく始まるのは明らかだ。稲垣は自らの勝利を確実なものとするため、選手交代を告げた。打席に立つのは彼の中指ではなく、繭に似た形をした遊具だ。 「このブブーンって音を聞くだけで、どこやらから熱いものを漏らすんだろ」  美智恵が反論する前に、その振動がショ ーツの上から肉 芽を狙って押し当てられた。 「ああん、それされるの弱いの…」 「美智恵がされても平気な責めってあったっけ?」  稲垣は振動を下着の中に潜り込ませ、やや大きめの蕾を捕捉した。それだけで、彼女の身体の中を一度目の大波が走り抜けた。窓の下を自転車で通行中の蕎麦屋の出前が、彼らの部屋の方を振り向いた。
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