部屋の扉が開く音が鳴った。涼花は思わず音のした方に顔を向けた。
「放してっ、警察がこんな真似をするんですかっ! 誰ですか、あの女の人は?」
「いいから、大人しくするんだ。今度有罪だったらムショ行きだぞ」
「悪いことをしたのはお前だ、分かってるだろう」
新たな容疑者が連行されてきたようだ。声からすると、若い女らしい。二人の男が女をこの部屋に勾引してきたと思われる。
「あたし、そんなことしてませんってば。何かの間違いです!」
「間違いかどうかを決めるのはおれたちであってお前じゃない。勘違いすんなよ」
「証拠は残ってるんだ。言い逃れなんかせず、素直に吐いた方がいいぜ」
新しい女を連行した二人の男は、涼花を逮捕した警官たちよりもドスの利いた声を響かせている。
「お疲れ様です、班長。その女は何をやらかしたんですか?」
太った方の声が耳のすぐ後ろから響いた。涼花の背後に回り、乳房を揉み、乳首を弾き転がしている。
「イヤっ、何なの? 何で他の人が入ってくるの?」
涼花の叫びを無視して、男たちのやり取りは続いていた。
「盗撮だ。女性用スパの更衣室で、利用者の女の裸を盗み撮りしていやがった」
「嘘ですっ!」
「なら、何でお前のスマホに画像が保存されていたんだ?」
「それは誰か別の人が……。痛いっ、止めてくださいっ」
女は泣き声を上げた。本当なら酷い話だ。だが、女の必死の訴えを耳にすると、本当に冤罪ではないかという気がしてくる。涼花もほとんど言い掛かりのような容疑で逮捕された身であるだけに、余計そう感じるのかもしれない。あまりの成り行きに、涼花は新たな恐怖と羞恥に襲われた。
「別の誰かがやったなら、その証拠を見せてみろ。どうせ、撮った写真を盗撮マニアか何かに売って小遣い稼ぎでもしていたんだろう」
「お前もあの女みたいな格好にされたいか?」
班長とその部下と思われる男の怒声が響き、どんという音とともに、床に何かが落ちるようなどさっという物音が響く。女が突き飛ばされたようだ。
「痛いっ。本当に警察なんですか、あなたたち? あの女の人は何であんな風に縛られてるんですか? おかしいですよっ」
「本来ならな、犯罪者は縄で縛り上げるもんなんだよ。手錠と腰縄くらいで済んでることをありがたく思え」
「いやっ、もう外してください……。取り調べの時は手錠もなしですよね?」
「それもそうだな。手錠は外してやるか」
カチャカチャという金属音が鳴っている。手錠の鍵を外しているのだろう。
「いやっ、何でっ? 手を離してえ」
「言ったろ? 犯罪者を拘束する時は縄で縛るもんなんだよ」
「あの女の縛られた姿、エロいだろ? お前も縛られたらもっとセクシーになるぜ」
縄が擦れる音が涼花の耳を嬲る。今連行された女も、涼花と同様に縄で縛り上げられているようだ。
「ほら、先客の女が尋問される様子でも見ていな」
班長と呼ばれた男の声だ。
「ああ、何をするのぉ……」
女の声が近くなった。もしかすると涼花と同じように、天井から垂れた縄に繋がれているのかもしれない。
「聞き分けのない女で困るぜ。ところで、その女は何をやらかしたんだ?」
「この女、縄とかカッターナイフとか危険な物を持ち歩いてましてね。軽犯罪法でしょっ引きました」
「そいつは穏やかじゃありませんね。何でそんな格好をしてるんですか、その女は?」
「SMの女王様らしいんですよ、それが」
「へえ、可愛らしい系の美人なのに、見かけによりませんね」
「それだけじゃありませんよ。ちょっとこの女のオ×ンコを覗いてみてください」
「おい、まさか、チ×ポが生えてるんじゃないだろな」
班長が軽口を叩いた。脚を開いて固定され、丸出しになった股間に息が掛かるのに、涼花はそっぽを向いて耐えた。誰の目にも触れさせなかった部分が、今日だけで四人の男に見られることになる。耐えがたい羞恥だったが、身動きもできず視界も遮られたままだ。
「へえ、こいつは驚いたぜ。処女膜がしっかり残ってやがる」
「え、処女なんですか、この被疑者は? おれにも覗かせてください」
班長の部下の男が涼花の股間に屈み込んでいるらしい。涼花は顔を左右に振り立て、身体を捩ったが、無駄な抵抗でしかない。
「マジですか、処女の女王様なんてのがいるんですね! こりゃ、相当に珍しいじゃありませんか」
その声は卑猥な調子を帯びていた。
「それに、こんな状況なのにビッショリ濡らしてやがる。取り調べを愉しんでやがるんじゃないか、この女被疑者は」
パンティの前の部分を擽られ、涼花は屈辱に喘いだ。
「軽く揉んでやっただけでこうですからね。処女のくせに助平な身体をしてやがりますよ」
長身の警官が涼花の反応を揶揄する。太った方が班長に言った。
「この女、涼花女王様って源氏名なんですが、なぜこんな仕事をしてるのか尋問してるところなんですよ」
「それは大事な点だな。早く吐かせちまえ。お前らのお手並み拝見だが、必要ならおれたちも手助けするぜ」
「へへ、班長たちに手伝ってもらったら、この女は言わなくてもいいことまでゲロっちまいそうですね」
太った方が下卑た声で班長に阿っている。髪の毛を掴まれ、乳房をギュッと握られる。己の恥ずかしい格好を他の警官と同性の容疑者の目に晒されながら、涼花女王様は恐ろしさに打ち震えるしかなかった。